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札幌地方裁判所小樽支部 昭和51年(タ)13号 決定

原告 春山花子 外一名

被告 札幌地方検察庁小樽支部検事 杜塚進芳 外一名 〔人名一部仮名〕

主文

本件を青森地方裁判所に移送する。

理由

一  請求の趣旨の要旨

「被告ジル・スミスと本籍小樽市△△×丁目××番地亡春山一郎との間に親子関係が存在しないことを確認する」との判決を求める。

二  請求の原因の要旨

1  亡春山一郎は昭和八年六月二九日本籍余市郡○○町大字△△××番地訴外夏山秋子と婚姻し、両名の間に長女原告春山花子(昭和八年六月一七日生)と二女原告春山夏子(昭和一四年九月一五日生)が出生した。

2  終戦後アメリカ合衆国の進駐軍が小樽市に駐留したが、その軍人の一人が昭和二一年三月末ころ訴外秋子をその兵舎に拉致し、性交を強行した。そのため訴外秋子は懐胎し、同年一二月二三日被告ジル・スミスを分娩した。そして、被告スミスは「友子」と命名され、昭和二二年一月七日小樽市役所に父一郎、母秋子の三女として出生届がなされた。

3  被告スミスは容貌が特異であつたことなどから、昭和二五年二月一三日本籍青森市○○町大字△△字△△××番地訴外冬山リツ(明治三九年五月二八日生)と養子縁組をして、同人の戸籍に入籍し、そのころ同所の同人方に引き取られて養育されるようになつた。

4  次いで、被告スミスはアメリカ人を父としているので、昭和三六年八月二五日志望によりアメリカ合衆国の国籍を取得し、そのため同日付で日本の国籍を喪失した。そして、被告スミスは「ジル・スミス」と名付けられた。

5  亡一郎は昭和二七年一〇月二日訴外秋子と協議離婚をしたが、昭和五〇年八月三一日死亡したので、相続が開始し、被告スミスも戸籍上その三女として相続権を有することになつている。

6  そこで、亡一郎の子である原告らは検察官と被告スミスを相手方として、亡一郎と被告スミスとの間に親子関係が存在しないことの確認を求める。

三  判断

1  本件訴訟は、日本の国籍を有する原告らが日本の国籍を有していた亡春山一郎とアメリカ合衆国の国籍を有する被告ジル・スミスとの間に親子関係が存在しないことの確認を求める訴訟事件であるから、いわゆる渉外人事訴訟事件であるが、この種の訴訟については人事訴訟手続法に規定がないものの、その性質上いわゆる親子関係事件に準ずべきものとしてこれを肯認すべきであるところ、本件訴訟については第一にわが国の裁判所が裁判権を有するかどうかが問題であり、第二にわが国の裁判所が裁判権を有する場合にはわが国における土地管轄が問題であつて、第三にその準拠法が問題である。

2  まず第一の問題について考えるのに、外国人間の離婚訴訟の国際的裁判管轄については最高裁判所昭和三九年三月二五日大法廷判決(民集一八巻三号四八六頁)があるが、親子関係事件についてもその判旨と同じように、被告が住所を有する国の裁判所に管轄権を認めるのを原則とし、被告の行方不明など特別の事情がある場合には補充的に原告が住所を有する国の裁判所にも管轄権を認めるのが相当である。なお、本件においては検察官が被告とされているが、検察官は法令又は判例により公益の代表者として人事訴訟に関与しているのであるから、国際的裁判管轄権を定めるのにあたつて検察官が被告となつていることを考慮に入れるのは相当でない。

そこで、本件についてみるに、原告らがこれまでに本件訴訟の準備のため提出した資料(以下本件資料という)のうちの訴外滝野澤栄一作成の回答書によると被告スミスの住所は前記当事者の表示欄に記載したとおり(編注・アメリカ合衆国ケンタツキー州○○の記載がある。)である事実を認めることができるが、本件資料のうちの筆頭者訴外冬山リツの戸籍謄本によると被告スミスは昭和三六年八月二五日志望によりアメリカ合衆国の国籍を取得し、同時に日本の国籍を喪失した事実を認めることができるので、このような場合には当事者間の便宜公平や子の福祉の点からみても特別の事情があるとみるのが相当であり、したがつて、補充的に原告らが住所を有するわが国の裁判所に管轄権を認めるのが相当である。

なお、本件において原告らは被告スミスとの間に戸籍上姉妹の関係があるにすぎないが、原告らの当事者適格が肯認されるものとすれば、右の理由付けに変動はないものといえる。

3  次に第二の問題について考えるのに、本件訴訟がわが国におけるどこの第一審裁判所の管轄に属するかは、手続法は法廷地法によるべきであるという原則から、日本の手続法によつて定められる。

そこで、本件についてみるに、本件訴訟は親子関係事件であるから、人事訴訟手続法二七条に従つて、子が普通裁判籍を有する地の地方裁判所の管轄に専属するとみるべきであるが、被告スミスの住所はアメリカ合衆国にあり、かつ、本件資料のうちの前記戸籍謄本、回答書、原告ら訴訟代理人作成の証拠申出書などによると被告スミスの日本における最後の住所は青森市にあつた事実を認めることができるので、同法二七条、三二条一項、一条二項の定めるところにより本件訴訟は青森地方裁判所の管轄に専属するというべきである。

4  そうすると、本件訴訟についてはこれを青森地方裁判所に移送すべきであるから、民事訴訟法三〇条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 加藤一隆)

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